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雲と追いかけっこを 1986 パート6 [読み物]

内房線のゆったりとしたリズムで、大きな真夏の入道雲をおいかけていく。

そして終着駅が近づいてきた。

ボックス席の若い男女ふたりの微妙な距離の行方は?







■ 前回話  ・雲と追いかけっこを 1986 パート5
http://versatile.blog.so-net.ne.jp/2012-08-19




結局、雲には追いつくことなく逃げられてしまい、雨はなく暑い夏のまま。

先に追い越して行った特急が既に到着している終着駅のホームに列車が入っていく。

駅のたたずまいは、駅舎、ホーム、人と時間の流れと、旅の終わりにふさわしい雰囲気のものだった。














駅の外に出てみても雨が降った様子は無くて、より南で緯度の低いの夏の日差しがまぶしい。

大きな旅行かばんは駅のロッカーに預けてしまい、海まで歩くことにする。

しばらく歩いていると赤い灯台が見えてきて、海まではもうすぐに感じられた。

あまりの暑さに途中の自動販売機で冷たい飲み物を買う。

彼女はウーロン茶、ぼくは普段めったに飲まないコーラを飲み干した。







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突然の思いつきで始まった、この房総行きなので水着なんて持って来てるわけも無い。

泳ぐ人のいない、防波堤を二人で歩いて行く。

岸からはセミ時雨。 波は穏やかだ。

海はどこまでも蒼く、その深さが見ていてここちよく、飛び込みたい衝動にかられた。

まだ何も無い、まっさらな男女と、夏と海がそこにあって、ただそれだけだけど、それだけでぼくには十分だった。

期待していた方には悪いけど、男女のことは何も無くて、手をつなぐ事さえなかった。









帰りの事はよく覚えていない。

人間の記憶って都合が良くない事は忘れるようにできているのかもしれない。

都心に近づくにつれ車内は混んできて、日常が入り込んできて、この旅が終わりに近づいているのを思わせた。

帰りも行きの電車の中と同じように、ぼくと彼女のあいだにあいかわらず言葉は少なかったけれど、お互いの存在は気にかけていて、意識しすぎる事は無いという、不思議な空気はあいかわらずのままだった。






おしまい















■ 番外編
http://versatile.blog.so-net.ne.jp/2012-11-08





■ 雲と追いかけっこを 1986

パート1
https://yasssy.com/story-8601/

パート2
https://yasssy.com/story-8602/

パート3
https://yasssy.com/story-8603/

パート4
https://yasssy.com/story-8604/

パート5
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最終回
http://versatile.blog.so-net.ne.jp/2012-08-27




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